午後の街角。道端で露天商をしている男に客が来た。
「いらっさい」
露天商は笑顔でお客に挨拶する。社交辞令。
お客はここの店の売っているものに興味を持ったようだ。
売られているものは写真たてのような、小さい額縁のようなものがひとつだけおいてある。中には、えらそうな顔で描かれたおっさんの肖像があって、「壱万円札」と書かれている。
お客は問う。
「なんで一万円が売られてるんだぃ?」
「あぁ。これですか。これはとっても精度がいい偽札なんですよ」
「偽札?」
お客は顔をしかめた。
「売ったら捕まるんじゃないのかぃ?」
「使わなかったら大丈夫です。この偽札はあまりにも精度が良すぎて
予算的にオーバーになったんですよ。だからこーやって美術用に売ってあるんです」
「へぇ。それは面白いね。幾らだぃ?」
「1万五千円になります。何せ精度が高い分お金がかかっちゃうんで。
ほら。いくら作っても損だったら意味無いでしょ?」
「それも、そうだな」
露天商は笑ってみせると、お客も笑ってくれた。
お客は財布から壱万円札と千円札五枚渡して、額縁を受け取る。
「毎度〜」
お客はうれしそうにそこから去っていく。
露天商はさっき受け取った5千円を財布に入れて、壱万円札を額縁に
入れて、また売り出した。
露天商は言う。
「気がつかなければ、どれも偽札なんだよ」