葬儀屋とご婦人

葬儀屋とご婦人

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とある町の葬儀屋に一人のご婦人が来店なされた。
ご婦人は先日、夫を病で亡くしていて、それ以来泣きっぱなしなのか
目の周りが赤くはれていた。

ご婦人は、あの人のためにも盛大な葬式を開きたい、と言っている。
しかし、それに見合うお金がないらしい。

どうしたものか、追い返すべきか? と葬儀屋の主人は困っていた。
すると、ご婦人はすすり泣く声のように悲しみに揺れた声で話す。

「あの人の夢は、立派なタキシードを着て埋葬されることでした。
でもうちは貧乏でとてもタキシードなんて買う余裕は・・・」

感極まったのか、ご婦人はまた大いに泣き始めた。
そんなご婦人に同情したのか、
葬儀屋は少し考えてから何か思いついたかのように、ご婦人の手をとる。

「おまかせください!ご主人の夢、私が叶えて差し上げます!」



翌日、ご婦人が葬儀屋に再び来店すると、タキシードを着た主人が
棺おけに眠っていた。
彼女は感激し、葬儀屋に何度も何度も感謝の言葉を述べ、頭を下げた。

葬儀屋は、はにかんだ様子で頭をかいて、こう言う。

「いやいや、礼にはおよびませんよ。
運が良かったと言っては何ですが、
たまたま華やかなパーティーの帰りに心臓発作で亡くなられた
お客さんがあったので。それをちょっとばかり拝借しただけでして、」

「でも着せかえや何かでいろいろ大変だったでしょうに、
本当にありがとうございました」

再びご婦人は、頭を下げる。
葬儀屋の主人は、そんなとんでもございませんと、手を横に振った。

ご婦人が頭を上げてから、葬儀屋はこんなことを漏らした。






「頭を取り替えただけですから」



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